1月13日(木)〜24日(月・祝)、東京・紀伊國屋ホールにて上演されるワタナベエンターテインメントDiverse Theater 第2弾『Too Young』。新宿・歌舞伎町「トー横」を舞台に、興信所の調査員・本郷(演:宮﨑秋人)が、自ら命を絶った少女の母親(演:朝海ひかる)から「娘の死の真相を知りたい」という依頼を受け、やがて「トー横」に出入りする人々の心の内側に潜り込んでいく――。「正解」のない現代の社会課題に真正面から挑む本作について、宮﨑、朝海に意気込みを聞いた。

「私たち」全員が当事者であるということ
――「Diverse Theater」は、ワタナベエンターテインメントがさまざまなクリエイター、プロデューサーとコラボレーションし、演劇の新たな可能性を拡げる実験的プロジェクトです。宮﨑秋人さんが主演を務める第2弾『Too Young』では、劇団チョコレートケーキの古川健さんが脚本、日澤雄介さんが演出を手掛けます。
宮﨑 プロデューサーから「どなたと作品づくりをしたいか」と聞かれて、以前『アルキメデスの大戦』でご一緒した古川さんと日澤さんのお名前を挙げました。お二人が快諾してくださったと伺ったときは本当に嬉しかったです。
――古川さん・日澤さんによるオリジナルストーリーで、新宿・歌舞伎町「トー横」を舞台にした現代劇という意外性のある本作ですが、当初からそういった構想だったのでしょうか。
宮﨑 その時点ではまったく決まっていませんでした。古川さんと日澤さんですし、やっぱり昭和初期の実在の人物や事件がモチーフになったりするのかなとも思ったんですが、いろいろなアイデアが出るなかで「あえて現代劇をやろう」という方向性にまとまりました。
朝海 その時点でもう、すごく意欲的ですよね。私も古川さん・日澤さんと日本の現代があまり結びつかないというか、そういう作品を拝見したことがなかったので意外でした。
宮﨑 まさしくいろんな挑戦が詰まった企画だなと思います。お二人がお得意な時代モノをやるのであれば、僕が劇団チョコレートケーキさんの作品に参加すればいいわけで。今回
は「Diverse Theater」と銘打って、ワタナベエンターテインメントがお二人とタッグを組んでつくる意義を探していくなかで、現代の「トー横」を題材にすることになりました。
朝海 日澤さんはどんな作品でも人の感情や人間ドラマを大切にされる方だと思うので、私もついていくしかないという気持ちです。そして古川さんが脚本を書かれた作品への出演ははじめてなので楽しみにしていたんですが、お二人は本当にツーカーの関係で作品をつくっていらっしゃる。役者として、とても安心して船に乗れるなあと思いながらお稽古に励んでいます。
――私たちが生きる現代社会を舞台にした『Too Young』。物語は「トー横キッズ」である少女がビルから飛び降りて命を落としたことをきっかけに物語が進んでいきます。脚本をお読みになったときはどう受け止められましたか?朝海 そうですね……やはり「重い」な、軽々しく感想を言える題材ではないな、というのが最初の印象でした。私自身、現代に存在する社会問題をドキュメンタリーチックに上演するというのはあまり経験がないので、これは大変だぞと思いましたね。それに、顔合わせのときにプロデューサーさんや日澤さんが、「子どもだけの物語としてではなく、観劇された方みんなが共感してくださるように」とおっしゃっていたのも印象的でした。
宮﨑 この作品では「大人」もしっかり描かれているんですよね。トー横や歌舞伎町についての本を読んで、そこに出入りしている当事者のインタビューや生い立ちに触れて、「こういう子どもたちは実際にたくさんいるんだ」と感じました。一方で、その親のほうに思いを馳せることはあまりなく。ですが、古川さんは子どもだけでなく大人にもスポットを当てて、「これはみんなの話なんだ」という視点で書かれている。全員取りこぼさずに「みんなで」考えましょう、と投げ掛ける作品だと感じました。

誰もが未熟さを抱えたまま生きている
――稽古場では「トー横」についての講習会やディスカッションを通じて、物語や役についての解釈を深めていらっしゃる最中だそうですね。演じる役どころについて現時点ではどう捉えていらっしゃいますか?
宮﨑 本郷はもともと前向きでポジティブな人間だったんだと思います。でも過去の仕事での経験がきっかけで、時間に取り残されているというか、前に進めなくなってしまっている。今は興信所の調査員としてちゃんと仕事をしてはいるけど、感覚的にはその日暮らしのような、何に熱を入れるでもなく生きている男、という印象ですね。
朝海 私が演じる母親については、彼女なりに本当に一生懸命生きているんだな、ということはすごく感じています。悲劇的なことに、娘と心を通わせることはできていないんですが、だからといって母親が悪いかというとそうでもなくて。家族を想っているからこそ、生活のこと、経済的なことを意識しすぎてしまって、結果的に家族の優先順位が下がっていたというか。そういうジレンマが彼女のなかでぐるぐる回っていて、葛藤を抱えながらも一日一日を懸命に生きていたんだろうなと思います。
――子どもだから未熟で、大人だから成熟している、と線引きできるものではなく。
朝海 誰でもみんな、何歳であろうと未熟な心を持っている、心に何かを抱えている、その象徴としての『Too Young』というタイトルなのではないか、というのが私なりの解釈です。ほかの登場人物もそうですし、この現代で生きていらっしゃる方々それぞれ、そういう面はお持ちなんじゃないかなと思います。
宮﨑 「大人」ってそれこそなんだ?と。僕は今35歳ですけど、自分を大人だとは思わないですし、でも子どもは子どもだなって思うんですよ。10代20代の子を見ていたら、「若いな~」とか「まだ子どもだからな~」とか思ったりします。だからといって、子どもではないことがイコール大人かというと、そういうわけでもないじゃないですか。それはきっと本郷にとっても見つかっていないところなんだろうなと。……大人ってなんですかね?
朝海 ね。大人って、なんだろうねえ。
宮﨑 自立していれば大人、なんて簡単なことでもないだろうし。よくわかんないですね(笑)。
――本作ではまさに、子どもだけでなく大人が抱える孤独やトラウマといったものも丁寧に取り上げられていますね。一方で「役者」としてのお二人はいかがでしょうか。宮﨑さんはデビューから約15年、確たる手応えのようなものは?
宮﨑 全然ないですよ(笑)。いまだに何にもわかんないなって思います。新しい台本をいただくたびに「台本ってどうやって覚えればいいんだよ」って思ってますし。もうちょっと自分なりのやり方みたいなものが見つかるのかなって思っていたんですけど、まだまだわからないっていうのが現状ですね。
――ただ、本作ではこれまでとは少し違ったアプローチをされていると伺いました。
宮﨑 実は今回、稽古に入る少し前に日澤さんにお時間をいただいたんです。ここの台詞の意図を捉えきれていないとか、この台詞は少し言いすぎているように感じるとか、細かい部分を全部洗い出して相談させてもらいました。もともとは「脚本に書かれたものは一字一句やる」というスタンスだったので、そういう意味では作品や役に対しての向き合い方が少し変わってきたのかなと思います。でも、何歳になってもこのままなんだろうな、毎回「台本ってどうやって覚えるんだっけ」と思いながら歳を重ねていくんだろうな、段々覚えにくくなっていくんだろうな、って思います(笑)。

――朝海さんも、宝塚歌劇団を経て現在までトップランナーとしてご活躍を続けられています。ご自身のなかで「役者として一人前になれた」と感じた出来事はありますか?
朝海 いや、ないですね。
宮﨑 ないんですか(笑)。
朝海 ないですね……。毎回「これじゃあダメ」って思っています。何もうまくなっていないし、何もよくなっていないし、自分の姿を見るのも本当は嫌なんですよ。
宮﨑 ええ~⁉
朝海 自分が出ている映像を見て勉強しなきゃいけないっていうことはわかってるんです。でもダメなところを直視したくないから手で顔を覆いながら見て、「あんな出来なら、もう人前に出たくない」って思っちゃう。もちろん舞台の上ではそんなこと考えていないですけど、ステージから降りたら、ただただ反省の毎日です。
街と地続きの劇場だからこそ感じられる何か
――本作には「トー横キッズ」と年齢の近い、10代後半~20代前半の方もご出演されます。
宮﨑 今回が初舞台だっていう方もいますが「しっかりしてるな!」って思います。すごいなあって。僕がデビューしたばっかりのころは「できません」「わかりません」を前面に出していたのに、彼らからは意地でも食らいついていってやるという気概を感じます。
朝海 私も皆さんと同じくらいの年頃のときは、まだ人様の前に出られるような人間ではなかったので(笑)。
宮﨑 ははははは! そんなことあります?(笑)
朝海 ほんとに(笑)。だから本当にすごいなと、感心しかないんですけれども。それから、私の台詞で「亭主元気で留守がいい」というお決まりのフレーズがあるんですが、10代の方々はおろか、20代の綱さんも「知らないです」「どういう意味ですか?」って言うんですよ。かつては当たり前だった価値観も変わっているんだ、と改めて感じて、日々意識がアップデートされていますね。それこそ秋人くんが子どものころから今も、だいぶ違うじゃない?
宮﨑 そうですね。
朝海 今この作品を通して、社会の変化をすごく感じています。

――物語の舞台となる新宿も、世相を反映しながら常に変化してきました。新宿という街のにはどのような印象をお持ちですか?
宮﨑 僕は東京育ちですけど、もともと怖い街だなあっていう印象はありましたね。2000年代に一斉摘発があったりして変わったなとは思いましたけど、でも新宿らしい「怖さ」はやっぱりあって。それはもう文化だな、それはそれで新宿らしくていいんじゃないかな、と思いますけどね。新宿で僕が馴染みがあるあたりというと三丁目ですかね。
朝海 高島屋があるあたり?
宮﨑 伊勢丹と二丁目の間あたりの、まあ飲み屋街ですね。一人で昼から飲んでます。
朝海 そうなんだ(笑)。
宮﨑 それこそ紀伊國屋ホールで観劇したあとに飲み屋さんに入ると、友達がたまたまテラス席にいたりして、それで一緒に飲んだりとか。
朝海 へぇ~! 素敵な休日。
宮﨑 僕、居酒屋で出会ったサラリーマンの方と一緒に飲んだりします(笑)。
朝海 それはすごい(笑)。私は東京出身ではないので、新宿といったらまさしく「大都会」、いいものから悪いものまで全部が詰まっている街というイメージですね。怖いとか危ないっていうことではなく、気持ちをグッと入れないといけない、パワーが必要な街だなと思います。
――新宿という街に集まる人のエネルギーは圧倒的だなと感じます。
朝海 そうなんです。渋谷や銀座ともまた違う、新宿独特のパワーがあるなと思います。でもありがたいことに、一度公演をさせていただくともうそこが自分の「シマ」のような感覚になるんですよ。それこそ新宿駅から紀伊國屋ホールに行く最短ルートだとか、「あ、ここから降りたらここに行けるんだ」とか。一回探り出すととても楽しい、探検もできる街だなあって思います。少しずつ攻略していくような、そういう楽しみができるようになりました。

――ご観劇のお客様にもぜひ、新宿という街を感じていただきたいですね。それでは最後に、公演を楽しみにされている方に一言いただけますか。
朝海 『Too Young』という意欲作が、観てくださった方にとって、家族やまわりの人のことを誰かと話し合うきっかけになったらいいなあと思います。それが他愛のない話であっても、会話することが前に進むきっかけになったら、と願っています。がんばります!
宮﨑 歌舞伎町が題材の演劇を、紀伊國屋ホールという新宿のド真ん中で上演します。劇場のなかで歌舞伎町を感じて、観劇後に劇場の外に出て新宿を浴びる。なかなかない、おもしろい演劇体験をしていただけるんじゃないかなと思います。がんばります!

