劇作家・末満健一がライフワークに掲げ、2009年より展開している壮大な世界観を持つオリジナル作品「TRUMPシリーズ」その最新作であるミュージカル『キルバーン』が、9月13日〜28日池袋のサンシャイン劇場で開幕。
ミュージカル『キルバーン』は2020年に上演を発表したものの、コロナ禍により、やむを得ず上演中止となっていた作品の待望の上演で、これまでの「TRUMPシリーズ」とは趣を異にした、ストーリー仕立てのライブとも言える形式を取り、演劇・ミュージカルの既成概念を壊す観客没入型の作品創作が進められている。
そんな新作で、不老不死の吸血種《TRUMP》である不死卿ドナテルロを演じる松岡充が、新たな舞台に臨む思いや、「TRUMPシリーズ」への深い考察を語ってくれた。
いまこそ上演する意味がある
Q:当初上演予定から年月が経って、今回待望の上演決定を聞かれた時の気持ちから教えていただけますか?
当初2020年に上演する予定だったので、かれこれ5年ほど経っていますから、正直まさかできるとは思っていなかったんです。コロナ禍の時期にやる予定だったもの、演劇だけではなくて色々なエンターテインメントの計画が流れてしまう事態が重なっていったことによって、アーティストも役者も夢破れて…というか、この世界から出ていかざるを得なくなった後輩達の姿を見ていましたし、流れたままで実現できなかった作品も多くあったと思うんです。そのなかでこのミュージカル『キルバーン』は、非常に厳しい時代をなんとか乗り切った人たちが、もう1度作品をスタートさせようと動いてくれてついに実現に至った。そのことが本当に嬉しいし、単純に嬉しいという言葉以上に感慨深いです。2025年の、いまのエンタメ業界に、何がしかでも役に立てることをしようと思っている人達にとっては、とても心強いことだと思います。少なくとも僕にとってはそうでした。
特にこの作品が、せめて舞台上では羽目を外して閉塞感をぶち破ろうという、世界全体が重たい方向に向かっているいまこそ必要なテーマに感じられるのも、すごいタイミングですね。
そういった一面もこの作品には込められていると思います。コロナ禍…今思い出すと、僕はこんな時だからこそエンタメが必要だと思っていたのですが、業界全体でそう打ち出す訳にはいかなかった。そういう時期は今は乗り越えられたのかもしれませんが、おっしゃるように世界情勢を見渡しても、日本の中でさえ厳しいことばかりのなかで、僕もこの舞台をお仕事のひとつとは捉えていないんです。年齢的なものもあるとは思うんですが、この先舞台を何十作品もやれるかというと現実感がないですし…… やろうと思えばもしかしたらできるのかもしれませんが、すくなくとも今後のための修行として舞台にチャレンジする、という年齢ではないですから、一つひとつの作品に命賭けで臨まないのなら意味がないなと思っていて。そう考えた時に、確かにいまこそ上演する意義があると感じられる、この『キルバーン』に向かう気持ちには強いものがあります。
「TRUMPシリーズ」の更に大きな扉を開く『キルバーン』
Q:この作品は末満健一さんのライフワーク「TRUMPシリーズ」 に連なる1作ということで、末満さんの頭のなかってどうなっているんだろう、と思うほど壮大な世界観ですが、そうした世界に入っていくお気持ちはいかがですか?
まさに僕もそう思っていて、頭のなかに「TRUMPシリーズ」という世界の全てが創造されていないと、創れない作品なんですよね。末満さんとは実年齢があまり離れていないだけに、同世代の、同じ年月を生きてきた人間としてすごくリスペクトしています。僕が音楽やライブ活動をずっとやっている間に、末満さんは演劇という舞台、ステージを中心にこの世界観を創造していったんだなと思うと、そこに参加させてもらえることもとても光栄です。
Q:そのなかでこのミュージカル『キルバーン』自体の印象はいかがですか?
この作品は「TRUMPシリーズ」のなかでもひとつ異質と言うか、末満さんが「TRUMPシリーズ」の世界観のさらに大きな扉を開けた気がするんですよ。僕は音楽朗読劇『黑世界 ~リリーの永遠記憶探訪記、或いは、終わりなき繭期にまつわる寥々たる考察について~』に出演させていただきましたが、その『黑世界』というタイトル通りに、例えるなら今までの「TRUMPシリーズ」には黒や白のモノトーンの世界という感覚を持っていたんですよね。でも実際に初めて末満さんにお会いした時に、僕は極彩色を感じたんです。色とりどりの世界をお持ちなんだろうなと。もちろん末満さんは2.5次元作品や、漫画原作作品など多方面で活躍されていますけれども、やっぱりその中心にあるのは「TRUMPシリーズ」だと思っていて、それがこの『キルバーン』ですごく広がったなと感じて。作品の仮チラシを見た時にも「あぁ来たな!」と思いました(微笑)。まさに極彩色ですよね?いま僕は台本に書かれているものを読んではいる、という段階なんですが、その行間に末満さんが何を込めているのか?をおぼろげでもいいから共有して、その世界観のなかで思う存分不死卿ドナテルロを創っていきたいなと思っています。

Q:いまの段階で感じている、不死卿ドナテルロというお役柄についてはどうですか?
ちょうど僕は5月~6月に『LAZARUS-ラザルス-』という作品で、かつてデヴィット・ボウイが映画の中で演じたニュートンという宇宙人の役で主演させて頂いて。自分が何者であるかがわからない。それを誰に訊いても分からないし、自分でも答えが出ないから死ねないし、生きることにさえも希望を持てない、そういう役だったんです。それが今回の不死卿ドナテルロと、どこか共通しているものを持っているなと。寂しさが狂気に変わっていき、その狂気が世界観を創っていった中での物語で、それはいつか崩壊する。そういう共通項を感じているので、これは是非末満さんにお伺いしたいんですが、そんな自分探しをする人物を通して末満さんが2025年の日本で生きる人たちにどんなメッセージを伝えたいのか、末満さんのなかで絶対に心づもりはあるはずなので、そこはちょっとすり合わせたいんです。もちろん台本に書かれている以上のことを全部言葉で説明して欲しいというわけではないんですけど、末満さんから発信されている電波を僕のアンテナで感じたいので、そこはちょっとお話しさせてもらってから、一緒に自分を探す旅に出たいなと思っています。
Part2では、音楽とお芝居の融合についてや、観客の皆様へのメッセージを綴っていただきました。
こちらから、ぜひご覧ください!
取材・文=橘涼香
公演概要

ミュージカル『キルバーン』
上演:9月・10月東京・大阪
作・作詞・演出:末満健一 音楽:和田俊輔
【出演】
松岡充/小林亮太 内田未来 フランク莉奈 山崎樹範 倉持聖菜 池田晴香 宮川浩/堂珍嘉邦
入江二千翔 小熊あれい kizuku corin 佐野空波 SHION 中込萌 渡邉南
スウィング:徳岡あんな/畑中竜也
【スタッフ】
美術:平山正太郎、照明:関口裕二、音響:百合山真人、振付:港ゆりか、歌唱指導:西野誠
衣裳:早川和美、ヘアメイク:武井優子、殺陣:末満健一、小道具製作:羽鳥健一
演出助手:高橋将貴/山本沙羅、舞台監督:佐光望、宣伝美術:岡垣吏紗、宣伝写真:中村理生
主催・企画・製作:ワタナベエンターテインメント
ミュージカル『キルバーン』公式ホームページhttp://kill-burn.westage.jp/
[TRUMPシリーズ公式サイト] https://trump10th.jp/