劇作家・末満健一がライフワークに掲げ、2009年より展開している壮大な世界観を持つオリジナル作品「TRUMPシリーズ」その最新作であるミュージカル『キルバーン』が、9月13日〜28日池袋のサンシャイン劇場で開幕。
ミュージカル『キルバーン』は2020年に上演を発表したものの、コロナ禍によりやむを得ず上演中止となっていた作品の待望の上演で、これまでの「TRUMPシリーズ」とは趣を異にした、ストーリー仕立てのライブとも言える形式を取り、演劇・ミュージカルの既成概念を壊す観客没入型の作品創作が進められている。
そんな新作で、不老不死の吸血種《TRUMP》である不死卿ドナテルロを演じる松岡充と、人狩人ダリを演じる堂珍嘉邦の対談が実現。
「TRUMPシリーズ」への想いや新しい作風への挑戦について語ってくれた。
中止から再始動へーー『キルバーン』に込める思い
ミュージカル『キルバーン』は2020年の上演予定がコロナ禍により中止となった経験があり、今年、満を持しての完成となりました。
松岡 はい、2020年に中止になってしまったことで、当時、末満(健一)さんが『黑世界』という音楽朗読劇を新たに創り上げたんです。そこで僕はシュカという役を演じたんですが、今回はドナテルロという、また別の役なんですよね。どちらもTRUMPシリーズとして地続きの世界線であるわけで、僕は一度シュカとしてその世界で生きていたから、今回もシュカでいいんじゃないかと思ったんですけど(笑)、いや、今作ではドナテルロでと。ドナテルロはすでに過去作で存在していましたし、なぜシュカじゃないんだというのはありました。

堂珍 僕が演じるダリもそんな感じですよね。
松岡 一体どういうこと!? ってなるじゃないですか。末満さん、そういうヒヤヒヤさせるのが好きなんでしょうね(笑)。
シリーズ15周年のときの『繭期極夜会』で、となりに細貝圭くんが演じるドナテルロがいたんです。僕はそこにシュカとして参加していたんですが、次に『キルバーン』で演じる役がドナテルロというのもわかっていたので、いったい自分はどういう気持ちでここにいたらいいんだ!? と悩みました。思わず、細貝くんに「ドナテルロなんだよね?」と確認したんです。「はい! ドナテルロです!」と元気よく返ってきたので、末満さんに「ドナテルロここにいますよ? でも僕も次、ドナテルロなんですよね?」と聞いたんです。そしたら「いいんです、いいんです、全然大丈夫ですから!」って。末満さんがそう言うのなら、これは明確な理由があるのだなと。
堂珍 それは複雑な心境ですね(笑)。僕は今回の出演が決定するまでTRUMPシリーズのことは知らなかったのですが、今作への参加は松岡さんが出演されるというのが決め手でもあったんです。松岡さんとは以前、一度映画(2014年公開『醒めながら見る夢』)で共演したことがあり、自分が30代前半くらいで舞台、ミュージカルの世界に入り始めて、そこで、松岡さんが自分よりも先にその道に入られてコンスタントに出演されているのを見てきたから。音楽活動とバランスよく両立されている印象でしたし、松岡さんの歩まれている道筋で、いつか僕が同じ役をやることもあるのかもしれないと、勝手にご縁を感じていたんです。あとは吸血鬼というワードが魅力だったので、きっかけは松岡さんと吸血鬼です。

松岡 あんまり吸血鬼っぽい場面はないけど(笑)。でも僕も堂珍くんの名前が入ってたのを見たときはときはうれしかったし、ヴァンパイア似合うわ〜って思っていました。
『TRUMPシリーズ』の想定を覆す
――熱狂的なファンを持つTRUMPシリーズと今作の魅力について、どのように感じていますか?
松岡 僕は最初に、末満さんがTRUMPというものをどういう想いで始めたのかを聞いていて、そのクリエイティブな世界観には大いに賛同できたんです。ただ、TRUMPの世界地図の中でも、この『キルバーン』という作品はちょっと異色な感じで。ビジュアルイメージにしても、これまでのTRUMPはモノトーンな感じのイメージだったと思うんですが、なんだか極彩色だし、えぇ!? となったファンの方もいたと思うんですよね。末満さんいわく、もしこの『キルバーン』の上演が叶わなかったとしてもTRUMPシリーズというものは今後も展開していく。だけど『キルバーン』という独自の作品性のものは今後存在し得ないし、他でこのカラーはもうやらないだろうとおっしゃっていた。そこで僕が思ったのは、TRUMPシリーズって、メインの大陸がドン! とあって、そのまわりにいろんな島があるんじゃなくて、様々な島があって、TRUMPという世界地図になっているんだなと。その上で、この『キルバーン』というのはまた特異な大陸なんじゃないかという印象です。

――そういったシリーズの想定を覆すような、新しい作風に関わることについて、怖さやプレッシャーは。
松岡 いや、むしろそういうのがないと僕は嫌ですね。末満さんの作品、クリエイティブの魅力ってそこだと思うんですよ。これは代々いろんな人がやっている人気の作品なんです、というような出来上がった枠組みのものではなくて。しかも、これは松岡充じゃないとダメだし、「松岡さんがやらなかったらなくなっていたものだった」とはっきりと言ってくれた。『キルバーン』は末満さん視点での僕、そして堂珍くんへの当て書きで、僕らじゃないとできないもので。僕はどんな作品でも出演のお話があったときは必ず、「なぜ松岡充なんですか?」って聞くんですよ。もともとミュージカル俳優ではないし、他の誰かでもいい役なら、僕がやる意味はないと思っているので。
堂珍 僕もプレッシャーとかは特になかったですね。松岡さんが言っていたように、他の誰がやっても成立するというよりは、自分がやる意味みたいなのはあったほうがいい。新しいこと、従来からの脱却や挑戦のほうがモチベーション的にも高まります。

松岡 すでに他の人が演じているドナテルロ問題にしてもね、同じ人間がやらなくて大丈夫かと末満さんに確認したんです。そうしたら、思っていたものを裏切るくらいの展開があったので、やっぱり末満さん、面白いなぁと。ダリに関しても、一体どうひもづくんだろうと思っていたし。
堂珍 ダリという人物は、過去作にもたくさん出ていますよね。分家とあったので、同じことをしなくていいというか、自分の思う感じでやれるだろうし、自分が呼ばれて意味がある部分を出せたらいいなと。
松岡 僕は『黑世界』で鞘師(里保)さん演じるリリーとご一緒したので、今回はリリーのキャストが変わったこともまたややこしいんですよね(笑)。でもこのややこしさも、TRUMPの面白いところでもある。
Part2 では、ライブで歌うこととは異なる難しさや、お二人の思春期を振り返ってちょっと恥ずかしい思い出エピソードを聞くことができました!
取材・文:根岸聖子、撮影:岩田えり
公演情報

ミュージカル『キルバーン』
上演:9月・10月東京・大阪
作・作詞・演出:末満健一音楽:和田俊輔
【出演】
松岡充/小林亮太 内田未来 フランク莉奈 山崎樹範 倉持聖菜 池田晴香 宮川浩/堂珍嘉邦
入江二千翔 小熊あれい kizuku corin 佐野空波 SHION 中込萌 渡邉南
スウィング:徳岡あんな 畑中竜也
【スタッフ】美術:平山正太郎、照明:関口裕二、音響:百合山真人、振付:港ゆりか、歌唱指導:西野誠、衣裳:早川和美、ヘアメイク:武井優子、殺陣:末満健一、小道具製作:羽鳥健一、演出助手:高橋将貴/山本沙羅、舞台監督:佐光望、宣伝美術:岡垣吏紗、宣伝写真:中村理生
主催・企画・製作:ワタナベエンターテインメント
ミュージカル『キルバーン』公式ホームページ
http://kill-burn.westage.jp
[TRUMPシリーズ公式サイト] https://trump10th.jp/