2025.09.26

ミュージカル『キルバーン』松岡充・堂珍嘉邦インタビューPart2:「TRUMPシリーズ」は演劇界の大河ドラマ

劇作家・末満健一がライフワークに掲げ、2009年より展開している壮大な世界観を持つオリジナル作品「TRUMPシリーズ」その最新作であるミュージカル『キルバーン』が、9月13日〜28日池袋のサンシャイン劇場で開幕。
ミュージカル『キルバーン』は2020年に上演を発表したものの、コロナ禍によりやむを得ず上演中止となっていた作品の待望の上演で、これまでの「TRUMPシリーズ」とは趣を異にした、ストーリー仕立てのライブとも言える形式を取り、演劇・ミュージカルの既成概念を壊す観客没入型の作品創作が進められている。
そんな新作で、不老不死の吸血種《TRUMP》である不死卿ドナテルロを演じる松岡充と、人狩人ダリを演じる堂珍嘉邦の対談が実現。
「TRUMPシリーズ」への想いや新しい作風への挑戦について語ってくれた。

ストーリーに没頭させずに観客として我に返る瞬間を生み出す

――ライブのステージで歌うこととは違う、今作で役として歌で表現することに対する難しさはありますか?

堂珍 めちゃくちゃ難しいです。マイクを持って歌うシーンがあって、それが騒がしいナンバーならともかく、シリアスなナンバーでマイクを持って歌うっていうのがね。マイクなしで、お芝居として両手を自由に使えて全身で表現するパターンはないのか、マイクありというのは揺るぎない感じなのかと末満さんに相談してみたのですが、やっぱりマイクなしはないみたいで。古畑任三郎シリーズで、番組の中のMCでスポットライトが当たってしゃべり出すナレーションの場面、あそこでマイクが加わっている感覚だと説明されたんです。そこは崩したくないし、歌の世界の人がマイクを持って歌うという説得力は役者にはないものだから、ぜひやって欲しいと言われて、そんなふうに言われてしまったら、もうやるしかないなと。

松岡 マイクを持つんだったら、自分のパフォーマンスで世界を創りたいってなるものだからね。ライブでも、ただ突っ立って歌うってことはしない。空間のすべてを自分で創るパフォーマンスが、マイクを持つ者が表現する歌なんです。だけど舞台ではダンサーや共演者がいる。役割としては、マイクを持って歌うだけで成立してしまう。それがなんかムズムズしてしまって気持ちが悪いというか。ステージにいる方たちはみんなプロフェッショナルで、すごい表現をしてくださるんですけど、マイクを持つ歌い手の感覚としては、マイクを持ってしまうと“俺のアクティングエリアをくれ!”となってしまうんだよね。

堂珍 第三者からすると、松岡さんのまわりにダンサーさんの踊りがあるっていう要素自体が、すごくフレッシュなんですよね。その構図込みでワクワクするというのはあるんですけど。

松岡  だから『TRUE OF VAMP』なんかは、現段階ではまだどういたらいいのかが掴みきれていない。ダリ(堂珍)がひとりで歌い上げるんだったらわかるんだけど、みんながこう見ているでしょう。どこを見ていいかわからず、最初はずっと裏を見てたくらい。

堂珍  わかりやすく言うと、歌番組の『ミュージックステーション』みたいな状況なんですよね。すぐ近くに同業者(アーティストやバンド)がいて、その目の前でパフォーマンスしなきゃいけないような。

松岡  照明のプランがどうなのかは現時点でまだわからないけど、堂珍くんの、ダリの歌の世界に入ろうとしても、まわりの人たちが見えてしまうっていうのがライブとの大きな違いで。後半でもまわりでみんながノリノリで、みたいなシーンがあるけど。

堂珍  マイクを持って歌うけれど、ライブで歌うのとはまったく違うところでの辻褄を合わせるのにはまだ慣れていないです。アッパーな曲なら僕はまだ大丈夫なんですけど、シリアスな曲のときは、極力後ろの人のことを意識しないようにはしています。まだ詰めている途中ですし、このすり合わせ自体が楽しいっていうのもありますけどね(笑)。

松岡  舞台でマイクを持って歌うこと自体、僕はこれまでも結構あったんです。マイクを持たせたら出てくるパワーが、やっぱり他の役者とは違うというのを期待されてやってきた。何千、何万人を前にしたライブで、歌とパフォーマンスで世界観に一気に連れていくというのをやってきた人間が、マイクを与えられたのにそれができない状況なわけです。マイクを持たず、ストーリーの中でキャラクターとして歌うっていうのももちろんやってきたけど、今回はそのどちらでもないっていうね。

堂珍  末満さん、第四の壁っておっしゃっていましたよね。

松岡  そう、いわゆる「異化効果」。ブレヒトが提唱する演劇的な技法で、ストーリーに没頭させずに観客として我に返る瞬間を生み出す。先ほどの古畑任三郎のナレーションに当たる部分、それがマイクを持つ歌唱の部分だってことなんだよね。その違和感というのを作りたいと言っていたんです。

――その曲数がとにかく多い。

松岡 全部で27曲。しかも歌詞に、ほぼリフレインがないんです。それも末満さんカラーなんですが、正直、今はヤバいなって思っています(笑)。

堂珍 わかります。松岡さんのドナテルロ、めちゃくちゃ曲数多いですもんね。

松岡 観客との距離感に関しても、まだ探っている途中ではあるんです。ライブ感で言ったら、全員総立ちでうわーっと盛り上がるのもひとつの理想というかイメージではあるけれど、演劇として劇場でやる作品ですから。ライブハウスではないので、着席しながら心の中で立ち上がって盛り上がってもらえたらと。僕らと同じ館の住人になって、一緒に盛り上がってもらえたらと思います。

堂珍 煽る場面もありますし、お客さんとの会話もありますからね。

TRUMPシリーズは演劇界の大河ドラマ

――どこからでも一度味わったら、過去作を見て深く知りたくなるTRUMPシリーズですが、ハマる要素はどのようなところだと思いますか?

松岡 演劇界の大河ドラマみたいな感じですよね。TRUMPに関わった人たちって、出身校が一緒みたいな、なにかつながりみたいなものがあるでしょう。世界も人もどんどん広がっているので、集まったらすごい力になる。そんな中でも僕ら『キルバーン』組、結構特異だよね(笑)。堂珍くんと僕とが歌ってバトルするなんて、音楽でもやっていないことを演劇でやるなんて、おもしろすぎる。

堂珍 末満さん、「闇鍋みたいだ」と言っていたんです。どういうことだろう? と思っていたんですが、作品にまず中世ヨーロッパ風の世界観があって、そこに吸血種が存在する。繊細な心の機微が交錯し、ときに同性同士の特別な絆が描かれる。さらに、殺陣、アクションもあり、今回はライブの要素まである。とにかくうまいものがずらーっと並べてあって、どの場所からでも惹かれてしまうのではないかと。そういう、色々な要素をミックスした美味しさがあるんじゃないでしょうか。

松岡 しかも純国産の完全なオリジナルでね。これは世界に打って出られるものだと思うよ。日本から生まれた独自の作品として、僕らとしてもしっかりと伝えていきたいよね。

――繭期は人間で言うところの思春期ということで、おふたりの思春期を振り返ってみて、ちょっと恥ずかしい思い出エピソードも。

堂珍 高校時代、教室という空間が苦手で、席も一番うしろの端っこじゃないと嫌な時期があったんです。よく学校をサボったりもして、ふらっと顔を出すとみんなに「久しぶり!」とか言われていました。当時つき合っていた彼女にも怒られ、蹴りを入れられたりして(笑)。自意識もそれなりに強かったなぁ。

松岡 わかるよ。僕も人と同じが嫌だったし、バンドやるなんて自意識の最たる発露だった。今でも夜中にバイクで大きな音出している人たちがいると、うるさいなぁと思いつつ、自分も同じようなことをしていたんだよなぁ、若さのあまり迷惑を省みずだったなぁと思ったり。今ではそんな風にちょっと寛大な気持ちになったりしています(笑)。

取材・文:根岸聖子、撮影:岩田えり

公演情報

ミュージカルキルバーン 

上演:9月・10月東京・大阪
作・作詞・演出:末満健一音楽:和田俊輔

【出演】
松岡充/小林亮太 内田未来 フランク莉奈 山崎樹範 倉持聖菜 池田晴香 宮川浩/堂珍嘉邦
入江二千翔 小熊あれい kizuku corin 佐野空波 SHION 中込萌 渡邉南
スウィング:徳岡あんな 畑中竜也

【スタッフ】美術:平山正太郎、照明:関口裕二、音響:百合山真人、振付:港ゆりか、歌唱指導:西野誠、衣裳:早川和美、ヘアメイク:武井優子、殺陣:末満健一、小道具製作:羽鳥健一、演出助手:高橋将貴/山本沙羅、舞台監督:佐光望、宣伝美術:岡垣吏紗、宣伝写真:中村理生

主催・企画・製作:ワタナベエンターテインメント
ミュージカル『キルバーン』公式ホームページ
http://kill-burn.westage.jp/
[TRUMPシリーズ公式サイト]https://trump10th.jp/

X:https://x.com/watanabe_engeki