2026.01.26

俳優・安井順平、演劇界の至宝「紀伊國屋演劇賞」受賞。芸人時代の葛藤から20年、名匠たちが惚れ込む“唯一無二の存在感”

紀伊國屋演劇賞は、紀伊國屋書店が主催する賞。第60回紀伊國屋演劇賞では、劇団扉座に団体賞、日色ともゑさん、竹中直人さん、片桐はいりさん、杉山至さん、安井順平に個人賞が贈られた。また、このたび紀伊國屋演劇賞が創設60年の節目を迎えることから、特別賞が設けられ、美輪明宏さん、こまつ座の井上麻矢さんが受賞した。

■ 演劇界に刻まれた「安井順平」の名

第60回を迎えた権威ある「紀伊國屋演劇賞」。名だたる名優が名を連ねる中、個人賞を受賞した俳優・安井順平の姿は、演劇を愛するすべての人にとって誇らしい光景となった。舞台という戦場で戦い続けてきた男の功績が、ついに最高峰の形で証明された。

■ 「作品を真ん中に置く」――劇団イキウメと共に歩んだ20年

安井が何よりも誇りに掲げたのは、所属する劇団「イキウメ」での20年以上におよぶ活動だ。「ビジネスは下手だが、自慢の劇団です」と語るその言葉には、効率や利益よりも「芝居の質」を愚直に追い求めてきたプライドが滲む。 「全員が作品を真ん中に置いて、心を持って芝居を作る」 このシンプルかつ過酷な信念を20年貫き通した劇団員への感謝を語る安井の表情には、一人の表現者としての深い覚悟が宿っていた。

■ 巨匠・ケラリーノ・サンドロヴィッチが託した信頼と、KAATで見せた演技

受賞の大きな要因となったKAAT神奈川芸術劇場プロデュース『最後のドン・キホーテ』。日本演劇界の巨匠、ケラリーノ・サンドロヴィッチ(KERA)氏が、安井を「アンサンブル」の一員として、かつ替えのきかない重要な存在として起用したことは、彼の実力が本物である証左に他ならない。 安井は「自分はアンサンブルとしてやったまで。KERAさんに素敵な役を書いていただいた」と謙虚に語ったが、出自の異なる役者たちを見事に繋ぎ合わせたその功績こそ、個人賞に値する輝きを放っていた。

■ 葛藤の果てに掴んだ「俳優」という光:すべての人への感謝

スピーチの終盤、安井は自身の今日を形作った人々一人ひとりへ、万感の思いを込めた感謝を捧げた。

2007年、芸人としてくすぶっていた自分を演劇の世界へ導き、20年以上伴走し続けてくれたプロデューサーの中島氏。そして、プロダクションに所属しながら劇団員として活動することを快く許した渡辺ミキ社長。その二人への感謝に続き、安井の言葉は、共に板の上に立つ仲間たちへと向けられた。
「安井さんがいるなら力になる」と笑顔で受け入れてくれた劇団員たち。そして、「安井さんがいてくれるなら、なんぼでも脚本を書く」と背中を押し続けてくれた作・演出の前川知大氏。彼らの無条件の信頼があったからこそ、安井は「俳優・安井順平」としての居場所を見つけることができたのだ。

特有のネガティブな語り口で会場を沸かせ、最後には「着ていく服がない」と照れ隠しで参列を断った愛すべき両親への感謝まで添えた安井。「受賞は事実なので、自信が持てるように頑張りたい」――その言葉は、これまで己を疑い、悩み抜いてきた男が、支えてくれたすべての人々の想いを受け取り、ようやく自分自身を肯定しようとした、誇らしくも感動的な瞬間であった。
その人間味溢れる素顔と、舞台上で見せる圧倒的な憑依力のギャップこそが、安井順平が愛される所以だ。